ひすとりいおぶばいおれんす

久しぶりにマンガを読んで衝撃を受けましたよ。いがらしみきお『かむろば村へ』。会社の隣にすわる上司が読んでいたのを軽い気持ちで借り受けたんですが、後頭部をガツンとやられたような衝撃。完全な不意打ち。いまだに頭がボーっとしています(それは大げさw)

物語は、タケという青年が、過疎化の進む東北の寒村かむろば村へ移住してくるところから始まります。タケは東京の銀行に勤めていたのですが、激務にともなう心労から「お金恐怖症」になってしまったという過去を持っています。彼がこの村にきた目的は、ずばり「お金を使わずに生きていく」こと。そんなメンヘラでメンヘルの彼を受けいれるのは、村長(とは名ばかりの、何でも屋)ヨサブロや皆から「神さま」とあがめられる(でも、見た目は普通のじいさん)「なかぬっさん」をはじめとする、一癖も二癖もある村民たちです。青年タケと村民たちがお互いに戸惑いつつも徐々に親交を深めていく物語の前半は、なんとものどかでユーモラスな雰囲気のなか進んでいきます。このあたり、四コマ漫画ではないものの、作品のテンポやキャラクター設定など、ちょっと『ぼのぼの』を思い出させるところもああり

しかし。物語が中盤を過ぎたあたりで、突然、このアットホームな空間に異物が侵入してきます。腐臭に引き寄せられる獣よろしく、ヨサブロの過去に連なる「暴力」がかむらば村へ忍び込んでくるのです。そこからの急展開ぶりがなんとも異様。物語の前半のトーンと後半のトーンのコントラストが激しすぎて、読んでいて唖然としてしまいました。

こ、これは、いがらしみきお版『ヒストリー・オブ・バイオレンス』じゃないかっ!

ただ、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』が「暴力の記憶」を描こうとして(それに成功している)のに対して、『かむろば村へ』のほうは、本来は「暴力」じゃないものを描こうとしていたのに、いつのまにか「暴力の記憶」に侵されてしまったかのようなヤバさを感じるんですよね。「暴力」というものを「制御できていない力」と定義するのであれば、『かむろば村へ』は『ヒストリー・オブ・バイオレンス』以上に、それを描くのに成功しているという見方もできるのかも。物語を制御しようとしてそれに失敗していく過程が垣間見えることによって。

いや、もちろん作者の真意はわかりませんよ。もしかしたら、最初からすべて計算づくだったって可能性もありますし(それはそれで、すごいけど)。いずれにしても、僕は前半と後半の物語のコントラストに相当な衝撃を受けました。この先、どーなんだよ。と、ハラハラしながらマンガ読んだのは久しぶりだなあ。


かむろば村へ 1 (ビッグコミックススペシャル)

かむろば村へ 1 (ビッグコミックススペシャル)

ヒストリー・オブ・バイオレンス

ヒストリー・オブ・バイオレンス