夕暮れをすぎて、夜がはじまるとき
秋分の日を過ぎたら一気に肌寒くなりました。
一年の周期を一日の時間に置き換えてみると、夏至が正午で冬至が真夜中、秋分の日はさしづめ日没にあたるんでしょうか。そう考えると、秋分の日からハロウィンまでの期間というのは一年における"Just after sunset"、「夕暮れをすぎて、夜がはじまるとき」といえそうです。あるいは、この時間帯は「黄昏」とか「トワイライト」なんて特別な名前で呼ばれたりも。昼の時間(光)と夜の時間(闇)が逆転する境界の季節なわけですから、そりゃ、急に肌寒くもなるってわけですね。
そんな一年の黄昏時にあたるこの季節に、アメリカはメイン州の片隅で田舎町が忽然と消えしてしまうという奇怪な事件が起きたのを、皆さんはご存知でしょうか。それもわずか30年あまりの間に三つもの町が次々に消えてしまったのです。消滅した町の名前はセイラズム・ロット、キャッスル・ロック、そしてチェスターズ・ミル。いずれも人口2000人に満たない小さな田舎町でした。
いえいえ、もちろん現実のお話じゃないので安心してくださいw キャッスル・ロックという町名をきいてピンときた方もいるかと思いますが、これはスティーヴン・キングの小説の世界でのお話です。セイラズム・ロットは初期の代表作『呪われた町』の舞台、キャッスル・ロックは『クージョ』や『スタンド・バイ・ミー』など数々の作品の舞台となりましたが『ニードフル・シングス』という作品で消滅、そしてチェスターズ・ミルは今春日本でも出版されて話題となった『アンダー・ザ・ドーム』の舞台として壮絶な最期を迎えたのでした。
一般的に『呪われた町』、『ニードフル・シングス』、『アンダー・ザ・ドーム』はそれぞれ独立した作品と考えられていますが、ぼくは個人的にこの三作品を「三部作(トリロジー)」ととらえて楽しみました。三部作ととらえた理由はいくつかあるのですが、そのひとつがこの三作を貫く"Just after sunset"な時間設定です。参考までにそれぞれの作品における重要な日付を下に書き出してみますね(ネタバレを含みますので、これから読もうと思っている方はご注意くださいませませ)。
『呪われた町』
9月16日 主人公ベンが、セイラムズ・ロットに引っ越してくる。
9月22日 吸血鬼バーローの眠る箱(棺)がマーステン館に到着。
10月7日 ベンとマーク、吸血鬼バーローと対決するも敗れて逃走。
10月6日 一年後に舞い戻ったベンによってセイラムズ・ロットが焼き払われる。
『ニードフル・シングス』
10月8日 ブライアン少年、オープン一日前のニードフル・シングスでゴーントに遭遇。
10月9日 ニードフル・シングスのグランドオープン。
10月15日 パングボーン保安官とゴーントの対決、キャッスル・ロックが焼け落ちる。
『アンダー・ザ・ドーム』
10月21日 突如、チェスターズ・ミルを覆う巨大なドームが出現。
10月27日 チェスターズ・ミルで大規模な爆発と火事が発生。
10月29日 チェスターズ・ミルを覆う巨大ドームが消える。
こう書き出してみると、見事なまでに一年の黄昏時を貫くタイムラインが浮かび上がってくるじゃありませんか。これは、偶然にしてはできすぎでしょう。やっぱりキングはこの季節を意図的に選んでいるんじゃないの、と勘ぐりたくもなりますね(しかも。ぼくも最近知ったのですが、キングの誕生日はなんと9月21日だそうですよ!)。少なくとも『呪われた町』には、キングが意図してこの季節を選んだのだろうと思える記述があったので、ちょっと引用してみます。
(以下『呪われた町』より引用)「やがて朝日が地平を染め、魔物たちはみな眠りについた。すがすがしく晴れわたった美しい秋の日の訪れが予想された。町の人々の大半は(町が死んだことも知らずに)、それぞれの仕事に出かけて行き、夜になれば別の作業が始まることに気づきもしないだろう。『老農夫の暦』によれば、月曜日の日の入りは午後七時ちょうどだった。日は一日ごとに短くなって、万聖節に近づき、さらにその先の冬に近づいて行く。」
このトリロジー、未読の方がいらっしゃったら、ぜひこのタイミングで手にとってもらいたいなあ。いまなら昼が夜に侵されていく感覚を、文字通り肌で感じつつ存分にお楽しみいただけるかと思うのです。
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